【ラノベレビュー】リア王!

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リア王! (HJ文庫) 第1巻書影

 

 またまた過去作からの投稿ですが。「リア充」爆発しろ、ではなく、「リア充という制度」こそ爆発させた、素晴らしい作品です。

 

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 高校生にとって学校は世界のすべてであるが、その学校を貫くのは「リア充」という制度である。そうであるなら高校生にとって、自分が「リア充」か否かが世界のすべてを左右する事になる。『リア王!』は、周囲からリア充と思われていながら本人らは「自分はリア充だ」という意識を抱いていない凰花・深月の2人の少女を描くことで、既存の「リア充」概念に疑問を投げかける。一見リア充に見える二人の少女のリア充意識を妨げているものは何か。凰花は趣味を公に出来ないことに苦しみ、深月は自分の本性を表に出せないことに苦しんでいる。どちらも「自由」の問題といっていい。作中で「リア充チェックシート」がリア充か否かの判断基準として用いられているのに象徴的なように、リア充という制度は条件羅列的で束縛的な枠組みだ。このことは凰花が無理にステレオタイプのデートを設計しようとする姿にもよく表れている。

 さて、そんな「リア充」という擬制を破壊することが本作の中心的テーマであるが、その役を担い、結果として二人の少女を救うのが主人公・御門帝人である。帝人にはリア充という抑圧的な制度を打ち砕くと言う崇高な理想を掲げる良心的な人物ではない。そんな優等生的な人物よりはるかに魅力的で、彼の友人である江代堂曰く、厚顔無恥で傲岸不遜で唯我独尊。ただ、このような男が良好な対人関係を絶対とするリア充の制度に与するはずがなく、これを真っ向から否定していく。彼はリア充の王である「リア王」を目指す。

 一巻では明確にリア充概念をぶっ壊す様子は描かれず、作品のテーマが冠水されたとは言えないし、地の文の語りにおいては荒が目立つところもある。しかし、主人公とヒロインの掛け合いは軽妙で飽きさせないし、なにより魅力的な主人公が本作の最大の強みだろう。彼らのやり取りだけでなく、学校全体を巻き込んでどのような事件を起こしてくれるのか、次刊を読ませたくなる良作だ。