【ラノベレビュー】隙間女(幅広)(電撃文庫)

 

隙間女(幅広) (電撃文庫)

 都市伝説を題材としたボーイミーツガール短編集。表題作の「隙間女(幅広)」は、家具と家具の隙間にいる「隙間女」を広所恐怖症と解釈し、部屋の外から出られない引きこもり少女として描く。主人公の部屋という小さな世界で展開される主人公とヒロインとの掛け合いが作品のメインとなる作品だ。ただ、それだけでは作品は平凡なものとして終わっていたはずだ。この作品は広所恐怖症としてではなく、太った存在として隙間女を描いくことが面白さを演出している。どういうことか。

 ほんのわずかなスペースに入り込む隙間女は、本来極めて痩身なはずである。この作品に登場する隙間女は人間としてはむしろ細身なのに、太っていることを気にしている。ポッチャリ系好きの主人公にとって、そんな隙間女が自分のことを「太っている」と称することは許せず、むしろどんどん食べることを推奨する。食べることの誘惑と隙間女としてのアイデンティティの間で葛藤しながら、結局おいしそうに食事をしている場面は読者に微笑ましく映る。

 作中で、太っているのを気にする少女はかわいいと触れられているが、ライトノベルにおいて本当にぶくぶくに肥ったヒロインを作品に登場させるのは冒険となる。この作品は「隙間女」と「人間」の違いを上手く利用して、ビジュアル上は決して太っていない少女の切実なダイエットの葛藤を描くことに成功した良作だ。