【ラノベ甘口レビュー】『明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。』(電撃文庫)

 

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明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。 (電撃文庫) 第1巻書影


 ある日、一人の少女の事故現場に遭遇した坂本秋月は、黒ローブの謎の人物から“おまえの寿命の半分で、彼女をたすけてやろうか”と選択を迫られる。男の提案に従い少女を救ったはずの秋月だったが、以来彼の身体は、一日おきに少女・夢前光の人格に乗っ取られるようになってしまう。その光がイタズラ好きなため、秋月が前日の光のイタズラのツケを払わされるというヤレヤレ系の新趣向の物語だ。二人には人格が交代している間の互いの記憶がなく、一日ごとに交換日記をするという形で連絡を取っている。ユニークな設定だが、身体不在のヒロインを日記という文字のやりとりだけで魅力的に描くことは容易ではない。光は「www」や「(キリッ)」などネット特有の表現を多用するのだが、下手をすれば浮いてしまいかねないそんな表現によって、自由奔放な光のキャラクターを造形しているところに作者の技量がうかがえる。また、相手の返事を待つワクワク(ハラハラ?)という、会話にはない緊張感が物語を貫いているところや、返事がないもどかしさが光の死の真相をめぐる物語後半のミステリー的な展開をうまく演出しているところなど、交換日記という道具を作品にうまく生かしている点も見事だ。そうしてヒロイン・光のハイテンションに乗せられて読み進めてゆくと忘れそうになるが、夢前光は死んだ存在だ。秋月が光の家を訪ね、母親から光のアルバムを見せてもらうシーンでは、光の生い立ちを収めた数枚の写真が見開きのイラストページで目に飛び込んでくる。その瞬間、読者の目に光が死んでいるという事実が強烈に立ち上がる。そこで初めてドタバタラブコメだったはずの物語が実は、永遠に会えない相手に恋をしてしまった少年少女の物語なのだと気づかされるという、うまい展開だ。交換日記を題材とした傑作にして、身体不在のヒロインを書ききった野心的な青春小説。第19回電撃文庫大賞・金賞受賞。全4巻。