【ラノベ甘口レビュー】『飽くなき欲の秘跡』

 

 

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飽くなき欲の秘跡 第1巻 書影


 主人公・世杉見識は男子高校生にして異能を売買する店のアルバイト店員。異能とはいっても取り扱うのは「すね毛を抜く異能」「文字を判読する異能」など、地味で脱力させられるユニークなものばかり。見識の仕事はそんな異能所有者を見つけることだ。
 ある日見識が出会った少女・一二三英惟花は陸上部員で走り高跳びの選手で、ライバルに負けたくないという思いから「物体(ポール)の振動を抑える異能」を宿していた。熱い友情物語の幕開けを思わせるが、英惟花とライバル・霞風利との歪な関係が明かされるうちに見識は人間の業の深さを思い知らされることになる。
「異能の本質は不幸にある」と作中にあるように、この作品は決して色調の明るい物語ではない。しかし、「異能」という設定をユニークな形で使用して人間心理を描き出したこの作品はライトノベルとして新しく、そして確かな読みごたえがある。第9回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作も納得の一作だ。