【ラノベレビュー】終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?(角川スニーカー文庫)

 

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終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? (角川スニーカー文庫) 第1巻書影

 未知の怪物「獣」によって多くの種族が滅ぼされた後の世界。生き残ったものたちは地上を離れ、空に浮かぶ群島に暮らしている。青年ヴィレム・クメシュが、数少ない人エムネトワイト類の生き残りとして数百年の石化の眠りから目覚めたところから物語は始まる。

 

 準クアシ・ブレイブ勇者として地上世界を守れず、ただひとり生き残ってしまった自責の念を抱えながら無為の生活を送っていたヴィレムは、武器倉庫の管理者として寂れた浮遊島に赴任することになる。しかし、施設にいるのは幼い少女ばかり。間もなく彼は、その少女たちこそが人間に代わって「獣」と戦う武器「黄レプラ金妖カーン精」であると知ることになる。

 

 準勇者の力を失ったヴィレムはもはや自分では「獣」と戦えず、未熟な少女たちを絶望的な戦いに送り出すことしかできない。世界を救えなかったヴィレムは、いうなればバッドエンド後の世界に一人取り残された存在だ。「黄金妖精」の管理者として少女を戦いに送り込むという、死よりも過酷な運命を負わされている。しかも少女たちには戦いから生還してもなお残酷な運命が待ち受けており、彼女たちはその運命を受け入れている。

 

 そんな悲劇的な結末しか残されていないような状況に、ヴィレムははじめ少女たちとの距離をはかりかねている。しかし、死にゆく定めのなかで日常をけなげに生き、小さな幸福を見いだそうとする少女たちに、ヴィレムは真正面から向き合おうと決意する。

 

 『このライトノベルがすごい!2016』(宝島社、2016年)の新作二位に輝くなど、各所で話題になった本作だが、実は売り上げが伸び悩んだことから第三巻の発売は危ぶまれていた。ところが公式ウェブサイトでのアンケートで続巻待望の声が多数寄せられたこともあり、シリーズの継続が決定したという稀有な作品だ。

 

 シリーズ続行を願う読者の気持ちは痛切にわかる。

 なぜなら、次巻が出ることでしか彼女たち妖精兵は救われないのだから。